更年期でコレステロールが急に上がる本当の理由

― 女性ホルモンと脂質代謝の生理学 ―

40代後半から50代にかけて、
「今まで正常だったのにLDLが急に上がった」
というケースは非常に多く見られます。

これは偶然ではありません。
内分泌(ホルモン)変化による代謝再構築が起きているからです。


1. コレステロールは“材料”である

コレステロールは単なる脂質ではありません。

副腎・卵巣で作られる

  • エストロゲン
  • プロゲステロン
  • テストステロン
  • コルチゾール

これらはすべてコレステロールを出発点とするステロイドホルモンです。
体はホルモンを作るためにコレステロールを必要としています。
しかも血中コレステロールの約70〜80%は
食事ではなく、肝臓で合成されています。


2. 更年期に何が起きているのか

① エストロゲン低下とLDL受容体

エストロゲンには、肝臓にある「LDL受容体」の発現を増やす作用があります。
LDL受容体とは、血液中のLDLを回収する“受け皿”です。

エストロゲンが十分ある状態では、
LDL受容体が多い
→ LDLが効率よく回収される
→ 血中LDLは上がりにくい

更年期ではエストロゲンが低下します。

すると、

LDL受容体が減少
→ LDL回収能力が低下
→ 血中LDLが上昇

これは非常に明確な生理学的変化です。


② 肝臓での脂質合成の変化

更年期ではインスリン感受性も変化します。

エストロゲンはインスリン抵抗性を抑える方向に働いていますが、
低下すると

  • 内臓脂肪が増えやすい
  • 糖を脂に変換しやすい
  • VLDL分泌が増えやすい

という代謝シフトが起こります。

VLDLは肝臓で作られた中性脂肪を運ぶリポタンパクです。
VLDLは血中で代謝される過程でLDLへと変化します。

つまり、

インスリン抵抗性増加
→ VLDL増加
→ LDL増加

という流れが加速します。


③ HDL低下と逆輸送機能の低下

エストロゲンはHDL(回収係)を増やす方向にも働きます。

低下すると、

HDL低下
→ 逆コレステロール輸送機能低下
→ 余剰コレステロールが滞留

となります。


3. “善玉・悪玉”という誤解

LDLはコレステロールを細胞へ届ける運搬粒子。
HDLは余剰を回収する粒子。

本質的には善悪ではなく、輸送方向の違いです。

問題は

  • 酸化LDL
  • 小型で密度の高いsdLDL
  • 慢性炎症環境

が揃うことです。

更年期では抗酸化防御力も低下するため、
酸化LDLが増えやすくなります。


4. 炎症との関係

コレステロールは組織修復に関与します。

血管内皮が炎症で傷つくと、
LDLが動員されます。

つまり、

炎症がある
→ LDLが集まる
→ 数値が上がる

LDLは“原因”というより
“現場に来ている存在”です。


5. 下げすぎるリスク

総コレステロールが極端に低いと、

  • ステロイドホルモン合成低下
  • 副腎機能低下
  • 抑うつ傾向増加
  • 免疫機能低下

との関連が報告されています。

材料が不足すると、ホルモンは作れません。

更年期女性では、
「高すぎ」だけでなく「低すぎ」にも注意が必要です。


6. 更年期女性が見るべき指標

単なるLDL値ではなく、

  • 中性脂肪/HDL比
  • non-HDLコレステロール
  • 炎症マーカー(hs-CRPなど)
  • 空腹時血糖・インスリン
  • 甲状腺機能

を総合的に見ることが重要です。


まとめ

更年期のコレステロール上昇は、

  1.  エストロゲン低下によるLDL受容体減少
  2.  インスリン抵抗性増加によるVLDL増加
  3.  HDL低下による逆輸送低下
  4.  抗酸化力低下による酸化LDL増加

という多層的な代謝変化の結果です。

コレステロールは敵ではありません。

それは
ホルモン環境と代謝環境の変化を映す指標です。