骨密度が上がれば安心?

骨粗鬆症の薬を飲む前に知ってほしい「骨を壊さないこと」と「丈夫な骨をつくること」の違い

更年期を過ぎた女性から、

「骨密度が下がったから、骨粗鬆症の薬を勧められました」
というお話を聞くことが、とても多くなりました。

「このままだと骨折しますよ」
「骨を丈夫にする注射がありますよ」

そう聞けば、怖くなりますよね。

もちろん、骨粗鬆症による骨折は軽く考えてよいものではありません。

特に背骨の圧迫骨折や大腿骨近位部骨折は、その後の生活の質や身体活動に大きく影響するため、骨折リスクが高い人にとって薬物治療には大きなメリットがあります。骨粗鬆症そのものも、骨形成と骨吸収のバランスが崩れ、骨折しやすくなる病気です。

だから私は、
「骨粗鬆症の薬は危険だから飲んではいけない」
と言いたいわけではありません。

ただし、
「薬で骨密度が上がった=骨そのものが健康になった」
と考えてしまうのも違うと思うのです。

薬には必ず「作用」があります

そして、その作用によって得られるメリットと、同じ作用から生まれるリスクがあります。

メリットとデメリットが必ず同じ大きさという意味ではありません。

けれど、
体の一つの働きを強く止めたり、強く動かしたりすれば、必ず体全体との関係を考える必要がある。

これは骨粗鬆症の薬も同じです。


そもそも骨は「壊して、作り直している」

骨というと、
一度出来上がった硬いものが、そのまま何十年も存在しているように思いませんか?

実際は違います。
骨は生きた組織です。

私たちの骨の中では、

古くなった骨を破骨細胞が壊し、
そのあとを骨芽細胞が新しい骨で埋める、

という作業を絶えず繰り返しています。
これを骨リモデリングといいます。

骨粗鬆症財団も、「丈夫でしなやかな骨を保つためには、古い骨を壊し、新しい骨につくり替える必要がある」と説明しています。

つまり、
骨を壊す=悪いこと
ではありません。

ここが非常に重要です。

古くなった部分を取り除き、新しく作り直す。
これは骨を健康に保つための正常な仕組みなのです。


なぜ更年期から骨が減りやすくなるの?

閉経すると女性ホルモンであるエストロゲンが急激に減少します。
エストロゲンには、骨形成を支えながら、過剰な骨吸収を抑える働きがあります。
そのため閉経後は破骨細胞の働きが骨芽細胞を上回りやすくなり、骨量が減少しやすくなります。
だから更年期以降の女性に骨粗鬆症が多い。

ここまでは自然な流れです。

問題は、
「骨が減るなら、骨を壊す働きを止めればいい」
だけで終わってしまうことです。


骨粗鬆症の薬は、大きく分けるとこうなります

分類 主な薬 何をしている薬? 主なメリット 知っておきたいリスク・特徴
骨吸収を抑える薬 ビスホスホネート 破骨細胞の働きを抑える 骨量減少を抑え骨折リスクを低下させる 顎骨壊死、長期使用で非定型大腿骨骨折、薬剤によって消化管・腎機能への注意
骨吸収を抑える薬 デノスマブ RANKLを阻害し破骨細胞を抑制 強力に骨吸収を抑え骨密度を増加させる 低カルシウム血症、顎骨壊死。急な中止・長期延期で骨密度低下や椎体骨折が増える可能性
骨吸収を抑える薬 SERM 骨ではエストロゲン様に作用 特に椎体骨折予防に用いられる 血栓症、ほてりなどに注意
ホルモン系 女性ホルモン製剤 エストロゲン作用を補う 更年期症状改善と骨量減少抑制 投与方法や背景により血栓症・乳腺疾患などを考慮
骨形成を促す薬 テリパラチド・アバロパラチド 骨芽細胞側を刺激する 骨折リスクの非常に高い人で強い骨形成作用 高カルシウム血症など。使用期間に上限がある
骨形成促進+骨吸収抑制 ロモソズマブ スクレロスチンを阻害 骨形成を増やしながら骨吸収も抑える 心血管系リスクを考慮。顎骨壊死についても注意喚起あり
骨代謝を支える薬 活性型ビタミンD3・ビタミンK2など カルシウム代謝や骨代謝を支える 骨代謝の補助 高カルシウム血症など薬剤ごとの注意点

現在の骨粗鬆症治療には、このように「骨を壊すのを抑える薬」「骨を作る方向を強める薬」「両方に作用する薬」などがあります。


「骨を壊さない」は、一見とても良いことに見える

ここからが、一番知ってほしいところです。

例えば骨吸収抑制薬。

破骨細胞の働きを抑えれば、
骨が減りにくくなる

骨密度が維持・増加する

骨折が減る

というメリットがあります。

これは間違いではありません。
実際、骨折リスクの高い人にとっては非常に大きなメリットです。

でも同時に、
破骨細胞は不要な存在ではありません。

古くなった骨、細かなダメージを受けた骨などを取り除いて、新しい骨へ入れ替えるためにも必要な細胞です。

つまり、
「骨を壊さないこと」と「健康な骨を作り続けられること」は同じではない
ということです。


メリットになる作用が、別の場面ではリスクになる

このことが非常に分かりやすく現れるのが、
薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)
です。

ビスホスホネートやデノスマブなどの骨吸収抑制薬を使用している人で、まれに顎の骨に骨髄炎や壊死が起こることがあります。

骨粗鬆症治療として使用する低用量では、がん治療で使用する高用量より発症頻度はかなり低いものの、ゼロではありません。日本口腔外科学会のポジションペーパーでも、骨粗鬆症に使われるビスホスホネートやデノスマブとMRONJとの関連が示されています。

顎の骨は特殊です。

歯を介して常に口腔内の細菌と隣り合わせで、
歯周病、根尖病変、抜歯、インプラント周囲炎などによって、骨のすぐ近くに炎症や感染が起こります。

本来なら、

傷んだものを取り除く

炎症を処理する

新しい組織を作る

修復する

という流れが必要です。

ところが、骨の吸収・入れ替えを強く抑えている状態では、この修復の流れがうまく進まない場合があります。

そのため現在は、骨吸収抑制薬を開始する前に口腔内の感染源をできるだけ治療しておくことや、投与中も歯科管理を続けることが重要とされています。


「止めること」が悪いのではありません

ここを誤解しないでください。

炎症を止める。
痛みを止める。
胃酸を止める。
免疫反応を抑える。
血圧を下げる。
骨吸収を抑える。

医療では、必要なときにこうした働きをコントロールすることで、命や身体を守ることができます。
だから薬は必要なのです。

ただし、
身体が起こしている反応には、本来何らかの意味があることも多い。

そこだけを止め続ければ、「なぜその状態になったのか」という根本原因が残ることがあります。

骨粗鬆症も同じです。

「骨が減るから、骨を減らさない薬を使う」
だけではなく、

なぜ骨が減っているのか?
まで考えてほしいのです。


骨粗鬆症は「カルシウム不足」だけではありません

丈夫な骨を作るためには、カルシウムだけあればよいわけではありません。

骨の土台にはコラーゲンなどのタンパク質があります。
そこへカルシウムやリンなどのミネラルが沈着します。
さらにビタミンD、ビタミンK、マグネシウムなども骨代謝に関わります。

日本整形外科学会も、骨粗鬆症の予防としてカルシウムだけでなく、ビタミンD・K・リン・マグネシウム・適量のタンパク質、運動、日光浴などを挙げています。

そして、
材料を食べただけでは骨にはなりません。

消化できること。
吸収できること。
血液で運べること。
細胞が使えること。

さらに骨には、

「負荷」
も必要です。

筋肉を動かし、体重を支え、適度な刺激が骨に入ることで、骨は「ここを丈夫にしておこう」と反応します。

つまり骨は、
栄養 × 消化吸収 × 血流 × ホルモン × 運動 × 睡眠・回復

という全身の働きの結果として作られているのです。


骨密度の数字だけを見ない

骨粗鬆症になると、どうしても
「骨密度を上げなければ」
と思ってしまいます。

もちろん骨密度は重要です。

でも私たちが本当に欲しいのは、
骨密度の数字でしょうか?
違いますよね。

欲しいのは、
転んでも簡単には折れず、必要なときにはちゃんと修復できる、生きた丈夫な骨
のはずです。

薬で骨密度を守ることが必要な人もいます。

でも、
薬を使っているから栄養はどうでもいい。
運動しなくてもいい。
睡眠不足でもいい。
口腔環境が悪くてもいい。

ということにはなりません。

むしろ薬を使っているからこそ、
身体が骨を作り、修復できる環境を整えることが大切
なのです。


「薬を使わずに済むなら、その方がいい。でも必要なら上手に使う」

私は、必要のない薬を使わずに済む状態なら、それに越したことはないと思っています。

でも骨粗鬆症の場合、
すでに椎体骨折がある、
大腿骨近位部骨折の危険が非常に高い、
骨密度が著しく低い、

といったケースでは、薬による骨折予防のメリットが非常に大きくなることがあります。

だから、
「薬を飲むか、飲まないか」だけで考えない。

大切なのは、
自分の骨折リスクはどの程度なのか。
なぜ骨が弱くなっているのか。
どの薬を、何の目的で使うのか。
その薬にはどんなリスクがあるのか。
いつまで使用し、どう評価していくのか。

を理解して選択することです。

特にデノスマブは自己判断で突然中止すると骨密度が急速に低下し、椎体骨折が増える可能性があるため、「怖くなったから次の注射をやめる」と自己判断してはいけません。

また、ビスホスホネートでは長期投与に伴う非定型大腿骨骨折なども考慮し、一定期間使用した時点で骨折リスクを再評価することが重要とされています。


だからこそ「土台作り.™︎」

骨だけを見ていても、丈夫な骨は作れません。

  • 骨を作る材料が入っているか。
  • それを消化・吸収できているか。
  • 必要なところへ血液で届けられているか。
  • 細胞がそれを使える状態なのか。
  • 古くなったものを処理し、新しく作り替えられる代謝が保たれているか。
  • 筋肉を使い、骨に適切な刺激を与えているか。
  • 睡眠によって修復する時間が取れているか。
  • 慢性的な炎症やストレスで、身体が消耗し続けていないか。

これらはすべてつながっています。

これが私がいつもお伝えしている、
「症状だけを見るのではなく、身体が元に戻れる土台を作る」
という考え方です。

骨粗鬆症だからカルシウム。
骨粗鬆症だから注射。

それだけではなく、

「なぜ私は骨が作れなくなっているのだろう?」
と身体全体を見る。

  • 原因となるものを減らす。
  • 戻るための材料を整える。
  • 充実した血液を届ける。
  • 不要なものを回収し、排泄する。

そのうえで、必要な場合には医療の力も上手に借りる。

薬か、自然療法か。
どちらかを敵にする必要はありません。

大切なのは、
薬だけに「健康にしてもらう」のではなく、自分の身体が健康を作れる環境を整えておくこと。

骨もまた、私たちの身体の一部です。
骨密度という数字だけではなく、
10年後も自分の足で歩き、自分の骨で身体を支えられること。

そのための骨作りを、今日から始めていきたいですね。

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土台整い度チェック

※骨粗鬆症治療薬を使用中の方は、この記事を理由に自己判断で中止・変更をせず、現在の骨折リスクや薬剤の種類について主治医と相談してください。特に抜歯やインプラントなどの歯科治療を受ける際には、使用している骨粗鬆症薬の名前と投与時期を歯科医師へ伝えることが重要です。