「アロスタシス」とは?

なぜ身体は交感神経優位から戻れなくなるのか

「マッサージをしても、そのときは楽なのに翌日にはまたガチガチ」
「ちゃんと寝ているはずなのに、疲れが抜けない」
「何もしていないのに、いつも身体に力が入っている」
「リラックスしたいのに、身体がなかなか休んでくれない」

こんな状態に心当たりはありませんか?

こうした状態を考えるうえで、ぜひ知っておきたい言葉があります。

それが、
「アロスタシス(Allostasis)」
です。

「ホメオスタシス」という言葉は聞いたことがあっても、「アロスタシス」はあまり聞き慣れないかもしれません。

でも、この2つの違いを知ると、
なぜ身体が交感神経優位の状態から、なかなか戻れなくなることがあるのか
が少し見えてきます。

まず、ホメオスタシスとは?

ホメオスタシスは、日本語で「恒常性」。

私たちの身体には、
・体温
・血糖
・血圧
・水分量
・血液のpH
などを、生きていくために必要な範囲に保とうとする仕組みがあります。

たとえば、
暑くなれば汗をかいて体温を下げる。
寒くなれば身体を震わせて熱をつくる。
糖が下がれば、身体の中で血糖を維持するための仕組みが働く。

つまりホメオスタシスは、
身体の内部環境が大きく乱れないように調整し、安定を保つ働き
です。

では、アロスタシスとは?

アロスタシスは、
「変化することで、安定を保つ」
という考え方です。

ここが、とても面白いところです。

身体にとって「安定する」というのは、
いつも同じ体温、同じ血圧、同じ心拍、同じホルモン状態でいることではありません。

眠っているとき。
運動しているとき。
食事をしているとき。
人前で話すとき。
危険を感じたとき。

それぞれ、身体に必要な状態は違います。

だから身体は、その状況に合わせて、

心拍を上げたり、
血圧を変えたり、
筋肉を緊張させたり、
エネルギーを使えるように準備したり、
ホルモンの分泌を変えたりします。

つまり、
身体そのものを変化させながら、その状況に適応して命を守っている。
これがアロスタシスです。

ホメオスタシスとアロスタシス、何が違うの?

ここをシンプルに整理すると、

ホメオスタシス
「大きく乱れないように、身体の内部環境を安定させる」
という考え方。

たとえば、

暑くなった
↓
汗をかく
↓
体温を調節する

というように、変化したものを生命維持に適した範囲へ調整します。

アロスタシス
「これから必要になる状態に合わせて、自分自身を変化させながら安定を守る」
という考え方。

たとえば、
「これから人前で話す」
と思っただけで、

心拍数が上がる。
呼吸が変わる。
手に汗をかく。
筋肉に力が入る。

まだ何も起きていなくても、身体はすでに準備を始めます。

つまり、ものすごく簡単に表現すると、
ホメオスタシス=安定を保つ
アロスタシス=変化しながら安定を保つ
という違いです。

さらにアロスタシスでは、
過去の経験や現在の状況から、
これから必要になるものを予測して先回りする
という考え方も重要になります。

ですから、
「ホメオスタシスとは別の仕組み」
というより、

アロスタシスという適応によって、結果として身体全体の安定が守られている
と考えると分かりやすいと思います。

たとえば、人前で話す10分前

まだ人前には立っていません。

でも、
「あと10分で私の番だ」
と思っただけで、

ドキドキする。
呼吸が浅くなる。
手に汗をかく。
身体に力が入る。

ということがあります。

実際にはまだ何も起きていません。

それでも身体は、
「もうすぐ必要になるぞ」
と先に準備を始めます。

これは身体が壊れているわけではありません。
むしろ、とても賢い適応反応です。

交感神経が働くことも「悪」ではない

ここも、とても大切です。

交感神経が働く。
心拍数が上がる。
血圧が上がる。
筋肉が緊張する。
血糖を上げ、すぐエネルギーを使える状態にする。

これらは全部、
必要なときには身体を守るための正常な反応です。

危険から逃げるとき。
仕事に集中するとき。
運動するとき。
何かに挑戦するとき。

身体は活動モードになる必要があります。

だから、
「交感神経優位=悪い状態」
ではありません。

問題は「終わったのに戻れない」こと

本来なら、

緊張する
↓
必要な行動をする
↓
終わる
↓
休息状態へ戻る

という切り替えができます。

ところが、

仕事のストレス。
人間関係。
将来への不安。
睡眠不足。
スマホやSNSから絶えず入ってくる情報。
痛み。
不規則な生活。
食生活の乱れ。
身体的な負担。
心理的な負担。

こうしたことが次から次へと続いたらどうでしょう。
一つ終わったと思ったら、また次。
また次。

身体からすると、
「まだ終わっていない」
という状態が続くことになります。

「アロスタティック・ロード」とは?

そこで出てくるのが、
「アロスタティック・ロード(Allostatic Load)」
という言葉です。

アロスタシスによる適応反応が、
何度も繰り返される。
長期間続く。
あるいは、ストレスが終わったあとも適切に解除されない。
そうして身体に積み重なっていく負担を、

アロスタティック・ロード
といいます。

簡単に言えば、
「身体が頑張って適応し続けた結果、蓄積していく負担」
です。

アロスタシスそのものが悪いのではありません。
必要な適応反応を、ずっと使い続けなければならなくなることが問題なのです。

車で考えると分かりやすい

坂道を上るとき、
車のエンジンの回転数が上がる。
これは正常です。
必要だから上げています。

でも、
坂道が終わっても高回転。
信号で止まっていても高回転。
家に帰っても高回転。
夜、駐車場に停めても高回転。
翌朝も高回転。

だったらどうでしょう。
エンジンにはどんどん負担がかかります。

身体も同じです。
「頑張ること」が問題なのではなく、
「頑張り続けて戻れないこと」が問題なのです。

では、交感神経優位とどう関係するの?

ここで気になるのが、
慢性的な交感神経優位との関係です。

アロスタシスに関係するのは、自律神経だけではありません。

身体は状況に適応するために、

・自律神経
・ストレスに関係するホルモン
・免疫
・代謝
・心血管系

などを連携させています。

ですから、
「アロスタティック・ロード=交感神経優位」
という意味ではありません。

ただ、
本来ならストレスが終われば落ち着くはずなのに、
いつも身体に力が入っている。

呼吸が浅い。
休んでいるのに頭が働き続けている。
些細なことでドキッとする。
なかなか眠れない。
身体が休息モードへ切り替わらない。

という状態が続いているなら、
身体の適応システムが長く働き続けている状態の一つ
として考えることができます。

アロスタティック・ロードは、交感神経だけでなく神経・内分泌・免疫など複数の適応システムへの累積的な負担を指します。

だから、揉んでも翌日にはまた硬くなる?

たとえば、
肩がガチガチだからマッサージをする。
その場では緩む。
でも翌日には、またガチガチ。

もちろん、姿勢や身体の使い方など、さまざまな要因があります。

でも、

もし身体そのものが、
「まだ警戒していた方がいい」
と判断していたらどうでしょう。

身体にとって筋肉を緊張させる必要があるのなら、
外から緩めても、
また緊張をつくろうとします。

だから、
「どこの筋肉を緩めるか?」
だけではなく、

「なぜ、この身体は緊張を必要としているのか?」
という視点も必要になります。

では、どうやって緊張状態から抜けるのか?

ここまで読むと、
「じゃあ、どうやって身体を休息側へ戻せばいいの?」
と思いますよね。

まずできることは、
身体に「もうずっと警戒しなくてもいい」という情報を与えていくこと。
そのために使える方法を3つご紹介します。

①「吸う→もう一度吸う→長く吐く」生理的サイ

一つ目は、呼吸です。
呼吸は、自分から自律神経の状態に働きかけられる、とても身近な方法の一つです。

その中でも、
「生理的サイ(Physiological Sigh)」
と呼ばれる呼吸があります。

方法は簡単です。

  1. 鼻から大きく息を吸う
  2. そのまま、もう一度鼻から短く吸い足す
  3. 口から、ゆっくり長く息を吐く

つまり、
「吸う → もう一度少し吸う → 長く吐く」
という呼吸です。

緊張したときや、
頭が興奮しているとき、
仕事の合間などにも使えます。

実際に、呼気を長くする「cyclic sighing」を毎日5分間行った研究では、1か月後に気分の改善や呼吸数の低下がみられました。ただし、これは「数回やればアロスタティック・ロードが解除される」という意味ではなく、緊張を切り替える一つの方法と考えるのが適切です。

② 「何もしなくてもいい時間」をつくる

現代人の脳は、本当に忙しい。

スマホを見る。
LINEを見る。
SNSを見る。
仕事を考える。
次の予定を考える。
家族のことを考える。

常に、

「次は何?」
「何か起きていない?」
と先のことを処理しています。

アロスタシスの視点から見ると、
身体はずっと、
「この先に何が起きるか」
を予測し続けているとも考えられます。

だからこそ、

  • 意識的に、何も判断しなくていい時間をつくる。
  • スマホを置いて散歩する。
  • 空を見る。
  • 自然の音を聞く。
  • ぼーっとする。
  • 目的を決めない。
  • 「次に何をするか」を考えなくていい時間を持つ。

現代人には、
「何もしない」
ことも大切なセルフケアの一つだと思います。

③ 身体のリズムを整える

そしてもう一つは、
毎日のリズムを整えること。

  • 朝起きたら外の光を浴びる。
  • 起きる時間を大きくずらさない。
  • 日中は身体を動かす。
  • 夜になったら強い光や刺激を減らす。
  • 睡眠時間を確保する。

当たり前に見えることですが、
身体にとっては、
「朝は活動する」「夜は休む」という予測をしやすくすること
につながります。

毎日のリズムが大きく乱れている身体より、
ある程度一定している身体の方が、
活動と休息の切り替えもしやすくなります。

ただし、「解除方法」だけでは足りない

ここが一番大切なところです。

  • 呼吸をする。
  • ぼーっとする。
  • 朝日を浴びる。
  • 入浴する。
  • マッサージする。
  • 瞑想する。

こうした方法で、そのときの緊張を緩めることはできます。

でも、
なぜ身体が警戒し続けているのかという背景が変わらなければ、また元に戻ります。

だから、
「どうやって交感神経を下げるか?」
だけではなく、

「なぜ、この身体は交感神経を働かせ続ける必要があるのか?」
を見ることが必要になります。

身体にとってのストレスは「心」だけではない

ストレスというと、

人間関係。
仕事。
不安。
悩み。

などを思い浮かべます。

でも、身体にとっての負担はそれだけではありません。

睡眠不足。
必要な栄養が足りない。
食生活の乱れ。
身体の痛み。
運動不足。
逆に過度な運動。
生活リズムの乱れ。
身体に処理しなければならない負担が多い。

そして、

感情を抑え続けること。
思考がずっと緊張していること。

身体は、
これらを全部ひっくるめて、
今の環境の中でどうやって生きていくか
を調整しています。

ここで「土台作り.™」につながる

こうやってアロスタシスを見ていくと、
結局、
私が普段お伝えしている
土台作り.™
につながってきます。

身体が本来の働きを取り戻せる条件を整える。
そのために大切にしているのが、
補給・解毒・巡り
の3つです。

補給

身体が働くには、材料が必要です。
必要な栄養素をそろえること。
そして、
ただ食べるだけではなく、
消化して、
吸収して、
身体の中で使えるところまで見る。
身体が適応するにも、
回復するにも、
材料とエネルギーが必要です。

解毒

解毒は、
「入れない工夫」と「出す工夫」
の両方です。
身体に入る負担を、できる範囲で減らす。
そして、
肝臓、腎臓、腸など、
身体がもともと持っている代謝・排泄の仕組みが働きやすい状態を整える。
身体に、
余計な仕事を増やしすぎないことです。

巡り

そして巡り。
ここには、
身体の巡りと心の巡り
の両方があります。
身体の巡りは、
血液やリンパ、運動、呼吸。など。
そして心の巡りは、
感情。、思い込み、物事の受け止め方。
いつも何かに追われていないか。
自分でも気づかない緊張を抱えていないか。身体だけ緩めても、
心がずっと「戦闘中」なら、
身体もなかなか休めません。

症状を抑えるより、「なぜそうなっているのか」を見る

アロスタシスという考え方を知ると、
身体の見方が少し変わります。

  • 肩が凝る。
  • 身体が緊張する。
  • 眠れない。
  • 疲れが取れない。
  • 交感神経優位と言われる。

そんなとき、

「どうやってこの症状を消す?」
だけではなく、
「この身体は、なぜ今この状態を必要としているんだろう?」

と考えてみる。

身体は、
私たちを困らせるために緊張しているのではありません。

その環境の中で、
一生懸命、適応しようとしているのかもしれません。

だから必要なのは、
身体の反応だけを無理に抑えることではなく、
その身体が、もうそこまで頑張らなくてもいい条件を整えること。

必要なときには活動できる。
そして、
必要がなくなれば、ちゃんと休める。
その柔軟性を取り戻していく。

ホメオスタシスとアロスタシスを知ることで、
「症状をどうするか」から、
「身体が本来の状態へ戻れる環境をどうつくるか」
へ。

身体を見る視点が、一段深くなるのではないでしょうか。